#10 カートを買いに出かける
翌日、母と連れだって、カートショップ「ブッチギリ」に出かけることになった。
途中、母は銀行に寄りヘソクリの預金の中から30万円をおろした。
母は、自分の息子がモナコに住めるような選手になれるものと思いこんでいる。キミは、そんなにうまくいくわけないのに、と思いながらも、母をおだてあげることに専念した。母の気が変わって、目の前のカートが消えてしまうことを恐れたからだ。
「最初は中古で充分だ。どうせすぐに壊すんだし」
不愛想な主人がボソっと言った。
「でも、中古じゃレースに勝てないだろ?」
「そうよ、そうよ。最短距離でF1にいくためにも……」
母もキミの応援をしてくれる。母の目には、紺碧の地中海しか映っていなかった。
「どうしても新品がいいというなら、こっちも商売だから反対はしないがね。ただし、クラッシュしても知らないからな」
そう言われるとキミは不安になった。やっぱり、いきなりレースに出て、勝つなんてことはむずかしいだろう。練習もしなければ……。でも、レース雑誌の記事を見ていると、性能の劣るマシンに乗っている選手は、いくら腕がよくても、性能のいいマシンに乗る選手には勝てない。勝てないということは、注目されないことだ。そのためステップアップもむずかしくなり、下のクラスでくすぶることになる。ここで金を惜しんだら……。でも、やっぱり壊してしまったら、おいそれと新品を買い直すわけにもいかない……。さあ、どうしよう?
1.中古で我慢する
2.新品を買う