いまはマンガもイラストもデジタルで描くのが当たり前の時代です。私が京都精華大学マンガ学部の教員になった2012年には、担当するキャラクターデザインコースを志望する受験生の多くが、タブレットとパソコンでマンガを描いていました。そもそも絵の描きはじめがタブレットで、紙に絵を描くアナログ形式の入試のために、生まれて初めてペンや筆、フエルトペンなどのアナログ画材を買ったという受験生も少なくありませんでした。
マンガやイラストの世界にも、生まれたときからデジタルの環境に親しんでいたデジタルネイティブが誕生していたわけです。キャラクターデザインコースに入学してきた学生の多くが目指していたのは、イラスト投稿サイトのPixivで上位にランクされることでした。そこで出版社やゲーム会社にスカウトされてプロになることを夢見る学生が多かったのです。私は、そんな学生たちに「Pixiv世代」という名前をつけました。
かくいう私も、最近は、マンガの仕事もフルデジタルです。ペンや紙は使いません。鉛筆もです。こんなマンガ家さんが、いまは大半になっていることでしょう。最近、仕事をした「コロコロアニキ」では、紙で入稿するマンガ家さんは1人だけとのこと。つまり、他のマンガ家さんは、すべてデジタルで作画し、オンラインで入稿していることになります。
(写真は2020年4月刊行の『こんにちはPython』を執筆したiPad Proの画面です。192ページの描き下ろしマンガ単行本でしたが、Windows PCのInDesignでコマ割りとネームまでやり、iPad Proのクリスタで作画しました。現在はWindows PCに接続した液晶タブレットとクリスタで、ネームの流し込みやコマ割りもしています)
私もデジタル入稿するマンガ家に含まれていますが、他の多くのマンガ家さんとおそらく異なっているところは、プロット、シナリオ、ネーム(コマ割り)、作画……と、マンガ制作のすべての段階でパソコンを使っている点でしょう。
そうなんです。現在のデジタル作画をしているマンガ家さんの多くは、コマ割りやセリフの配置を決めるネームだけは、紙に鉛筆やペンといったアナログで作業している人が多いのです。紙に鉛筆で描いたネームをスキャンし、クリップスタジオに取り込んで、コマ割りやネーム打ちの「清書」をして、そこで下描きやペン入れをしていくという手順です。
ここで、最近の私のマンガ制作手順を紹介してみましょう。私は、次のような流れでマンガを執筆しています。
企画書は、新しい作品を手がけるときに、まず作成します。作品の狙い(テーマ、題材、読者層)や「売り」を明確にし、編集者と共有するためです。マンガの企画というと、編集者から「ネームを見せて」と言われることが多いのですが、数十ページのネームを完成させたうえでボツになることも珍しくありません。
ネームは、アニメでいえば絵コンテに当たります。キャラクターもセリフも決まり、コマ割りや構図による演出もなされています。ところが、ボツになる理由は、それ以前の取りあげた題材(ネタ)や基本アイデアのような初期設定の問題によることが多いのです。
ネーム作成に至るまでの作業には、長い時間を要します。それなのに、セリフやコマ割り以前の問題でボツになることは、理不尽以外の何ものでもありません。ネーム段階でボツになったら、1円の収入にもならないからです。
このように不合理な時間のロスを防ぐためにも、まず、題材も含む企画の段階で、編集者からOKを取りつけるのが得策ではないでしょうか。
そのような考えから、私は、とくに新作の場合は、まず、どのような作品を描きたいかを企画書にまとめ、編集者に見てもらうようにしています。
既存の作品で、設定やキャラクターが決まっている場合は、プロットを提出して編集者に検討してもらいます。この段階で編集者からの修正依頼や要望も採り入れ、ふたたびプロットを見てもらいます。
プロットがOKになったら、次はシナリオの執筆に取りかかります。
面倒なように見えますが、この手順を踏むのにも理由があります。それは、ネームが理解できる編集者が多くないからです。セリフとキャラクターの動きや心理状態が文字で説明されているシナリオなら(小説形式のこともあり)、たいていの編集者が内容を理解してくれます。シナリオでセリフやストーリーが決定されれば、ネーム(コマ割り、セリフの配置、オノマトペや構図の決定)にも時間がかかりません。
次回では、「コロコロアニキ」に執筆した新作『ゲームセンターあらし』のシナリオとネームをPDFでお見せします。また、昨年末に描いた『ゲームセンターあらし』のペン入れの様子を動画でご覧に入れます。よければ参考にしてください。