#88 転戦
キミは、そのチームに出かけた。「チーム空飛ぶ円盤」という名前だった。
変な名前だなあ、と思ったが、果たしてその通りだった。チームオーナーは伊賀といって、伊賀忍者の子孫だという。マネージャーは沼津に住む奈魔津といった。
「レースは念力が大事なんだ」
それが二人の口癖だった。念をこめれば曲がれないコーナーはない、という。とくに鈴鹿のスプーンカーブは、よく曲がれるようになるという。
少し不安になってきたが、キミは、そのチームからレースに出ることにした。
最初のレースは筑波だった。練習走行に出走した。しかしタイムは出なかった。初めてのコースで、鈴鹿のような目印がわからなかったからだ。
そのときになってキミは気がついた。コースの目印に頼っていては駄目なんだ。F1だってF3000だって、ヨーロッパのレースは、あちこち転戦するのが当たり前だ。初めてのコースでも、すぐにコースを見きわめてタイムを出せるようでなければ、レースなんてできない。
念をこめろ、というのは、自分の走りに集中しろということなんだ。
それに気付いたキミは、コースの目印になるようなものを探すのをやめて、走りに専念した。
1.続く