#43 スキャンダル


「困ったな。これじゃ、外に出られないぞ」
 アイドルタレントが、ブツブツと文句を言った。
「ぼくがお手伝いしましょうか? ぼくが姉と一緒に外に出て、カメラマンの注意を引きますから、その隙にこのマンションを出てください」
「それはいい考えだ。弟と一緒じゃ、スキャンダルにもならないもんな。頼んだよ、キミ」
 アイドルタレントは、キミに5枚ほどの1万円札を握らせた。
「困りますよ、こんなことされちゃ」
 キミが返そうとするのを、姉が止めた。「いいのよ、もらっときなさい。ほんのお小遣いなんだから」
 姉は、じゃ、後でいつものホテルで、と恋人に告げると、キミの腕をとって、マンションのエレベーターに乗り込んだ。恋人同士のように、キミと姉は腕をからませて、玄関を出ていった。
 ストロボが光った。植え込みに隠れていたカメラマンがカメラのシャッターを押したのだ。次に突撃取材記者が飛び出してきた。
 キミは、ストロボの閃光を避けようとして、目の前を覆っていた手をどけた。
「あれぇ、誰なのキミ?」
 記者がキミの顔を見て、目を丸くした。
「私の弟よ。レーサーのタマゴなの」
 姉が、にっこりと微笑んで言った。

 1.続く