#26 父帰る
「自棄になってね、会社から退職金を前借りして競輪に行ったんだ。そこで1点買いしたら5万円の大穴が出て、300万円が1億5千万円になってしまったんだ。それを元手に自分で会社を始めたんだ。会社に努めていたときに上司の反対で実現できなかったプラスチック処理の技術を、競輪で儲けた金で開発したんだ。とたんに国内、海外から引き合いが殺到してね……。一番熱心だったアメリカの会社に、その技術と一緒に会社を売ったんだ」
父は、わずかの間に、サクセスストーリーの主人公になっていた。
「プラスチック処理の技術開発が私の夢だった。それが、地球環境が問題になる中で注目を浴びたというわけだ」
「うだつの上がらないサラリーマンだと思っていたのに……」
母は目をうるませていた。
「そうさ。私にだって夢はあった。ただ、話すのが照れくさかっただけなんだ」
夢を実現し、自信にあふれた父がまぶしく見えた。その父がキミに向かって言った。
「さあ、次は、お前の夢を実現する番だ。家族でアメリカに渡ろう」
「アメリカに?」
「それは、これからのレースの時代は、アメリカが主導権を握るようになるからさ」
父が自信たっぷりに答えた。
1.続く