#15 カートに乗るのを断念する


 キミはカートに乗るのをあきらめた。こんな痛い思いをするんだったら、平穏無事な人生を送ったほうがいい。
 その夜、家で、カートをあきらめたことを告げると、「この根性なしーーッ!」
 と叫ぶが早いか、
 バシーーン!
 母の平手打ちが、キミの頬に飛んだ。
「それくらいで、F1チャンピオンになるのをあきらめるてしまうの? あの天井にひときわ輝くF1チャンピオンの星になりたいと思わないの!?」
 母は、ピッ、と頭上を指さした。そこには、アイルトン・セナとアラン・プロストのポスターが貼られていた。しかも、クリスマスツリーに使うイルミネーションの電球まで飾られ、ピカピカと点滅している。
「寝るときには、必ず、この天井のポスターを見て、チャンピオンになるんだ、と願いをこめて祈るのよ! それこそがF1チャンプへの道! そして……」
 母は、キミの目を見つめると、急にニヤリと笑っ言った。
「これこそが、私のモナコへの道なのよ!」
 母がおかしい。青春の日に憧れたモナコに、すっかり毒されてしまっているようだ。
しかも、これだけではすまなかった。

 1.続く