私がインターネットをはじめたのは1994年の終わりくらいからだったかな? アメリカのパソコン通信サービス「CompuServe」が、インターネットへの接続をはじめてくれたおかげで、日本でインターネットの商用利用が開始される前に、Webの世界を一足早く体験できました。
使っていたブラウザは「NCSA Mosaic(モザイク)」。アメリカのイリノイ大学にあった国立スーパーコンピューター応用研究所(NCSA)の研究者マーク・アンドリーセンたちが開発し、公開していたブラウザです。
自分の「ホームページ」を公開したのは1996年1月4日のこと(当日の日記)。もう25年も前なんですね。毎日、睡眠不足になりながら、HTMLファイルを作ってはMosaicで画面を確認していたものです。もっともWebサイト作りの状況は、いまもあまり変わりありませんが。
日本でもWindows 95の発売に重なるようにインターネット・プロバイダーが続々と誕生し、個人がインターネットに接続したり、Webサイトを開設したりできるようになりました。
でも、その頃のWebサイトといえば、北米のものがほとんど。CompuServeにつないでいたので英語には抵抗がなく、あちこち覗いてまわったものです。
そんなWebサーフィンを楽しんでいる頃に知ったのが、PDFの存在でした。そう、Adobeが提唱した電子文書のファイル形式で、印刷物のフォーマットをそのまま電子化できるというものです。
アメリカでは、官公庁がPDFを採用し、紙の書類をデジタル化することで、ペーパーレスの方向に大きく、しかも急激に舵を切ることになりました。
――PDFが世界標準になり、日本語化が進めば、日本にも電子出版の波が押し寄せるかもしれない……。
そんなことを夢想して、PDFの日本語化――つまり、Adobe Acrobatの日本語版の登場を待ち望むことになりました。
Adobe Acrobatの日本語版が登場したのは1997年になってから。6月3日にヨドバシカメラに探しにいったものの購入できず、やっと買えたのは6月8日になってから。秋葉原のぷらっとホーム(旧・本多通商)で、なんとか買えたのでした。
歓び勇んで電子書籍めいたものを作り、Webサイトで公開したりしましたが、まるで読んでもらえません。PDFが普及していなかったからです。それでもPDFは必ず普及し、出版の世界でも欠かせないツールになるだろうと確信しました。このあたりは、実際に触り、試してみての実感でもありました。
最初に待ち望んだのは、出版社のゲラがPDFになることでした。小説も書いていましたが、出版社にモデム付きのノートパソコンを貸し出し、メールで原稿を送れるようにしていました。印刷会社では、すでにDTPを導入していて、小説の原稿もデジタル入稿になっていましたので、テキストファイルで入稿した方が、あちらも手間とコストが削減できるはずだったからです。
この頃、多くの出版社は、パソコンやワープロで書かれた文字原稿でも、紙に印刷したものを受け取り、これを印刷会社のオペレーターが、あらためてキーボードでパソコンに打ち込むといったむなしいことをしていました。それを私の場合は、原稿のテキストファイルを電子メールで送ることで、オペレーターの入力が省略できたわけです。
小説のゲラは、紙に印刷し、閉じられたものが宅配便やバイク便で送られてきました。そのゲラにボールペンなどで赤入れして、また、宅配便やバイク便で返送するわけです。
しかし、です。印刷会社はQuarkXPressやPageMakerでレイアウトし、入稿していますから、ゲラをPDFで出すことも可能だったはずです。PDFならeメールに添付して、やりとりができます。しかもPDFの編集ができるAcrbatがあれば、PDFの内容を紙に印刷することなく、ファイルの上で文章の訂正ができるようになります。
しかし、この原理が、編集者には、なかなか理解してもらえませんでした。また、印刷会社も、ゲラをPDFで出すことには抵抗を示していたようです。それはDTPという一手間をかけたファイルの権利関係が曖昧だったからです。
そんな状態だったので、ゲラをPDFで受け取るのは、ほとんどあきらめていたのですが、2000年の秋、突如、ゲラをPDFで送ってきた出版社が現れます。IT系出版社のインプレスが、データセンターをテーマにしたムックを出版することになり、『データセンターあらし』というダジャレみたいなタイトルのマンガを依頼されたのです。
3ページのカラーマンガでしたが、面白そうだったので引き受けました。
すでに購入していたスキャナーを使って、コマ割りからペン入れまでをすませた原稿をスキャン。kれをPhotoshopに読み込んで色づけと仕上げをする手順です。カラーの原稿はファイルサイズが大きかったため、MOに記録して、バイク便のお兄さんに渡したような記憶があります。
このカラー原稿製作手順は、次ページをご覧ください。
で、この原稿を渡した数日後、担当編集者から、「ゲラをPDFで送りたいのですが」という問合せのメールが来ました。
ついにゲラをPDFで見られるのか! 3年前に買ったAcrobatが、やっと役に立つ!
と、大喜びしたものです。
ゲラのPDFは、ファイルが圧縮されていたので、さほど大きいものではなく、メールへの添付で送られてきたような記憶があります。もしかすると専用サイトからのダウンロードだったかもしれません。原稿送りも、もしかすると……。記憶が曖昧ですみません。
とにかくPDFで送られてきたカラーマンガのゲラは、無事にAcrobatで開くことができました。
このときショックだったのは、色が汚くなっていたことです。原稿をRGBで送っていたために、CMYKで出力されたものは、とくに緑色などが濁ったようになってしまっていました。
このときは、まだRGBとCMYKの違いに関する知識が曖昧で(アナログのカラー印刷についての知識はあったのですが)、こんなドジばかり踏んでいたのでした。
というわけで、入稿した原稿と、紙面用の原稿の色の違いなどを、次のページで、ご覧になってみてください。
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