しかし、この方法では、依然として問題が残っていました。Macで絵を描くときの入力デバイスが、相変わらずマウスだけだったからです。
平田弘史先生は、マウスでもスラスラと侍の絵を描いてしまいましたが、残念なことに私には、そんな画力がありません。下絵もなしにマウスで絵を描いても、ヘニョロヘニョロになってしまいます。
――せめて、ペンみたいなもので入力できるようになれば、もう少しまともな絵が送れるのに……。
『こんにちはマイコン』を描いたとき、NECのPC-6001と一緒に、ペンタブレットともいえるデジタイザーを購入しました。でも、ドットが粗くて、とても使いものにはなりませんでした。
ペンで描いた絵を電話回線経由で送ることはあきらめていたのですが、FAXモデムでもあったポケットモデムの説明書(もちろん英語)を読んでいたら、なんとFAXモデムに受信機能があるではありませんか! ということは、FAXマシンから送信した画像データを受信できるということです。
ジャジャーン!
事務所には、毎月、高額のリース料を払っているFAXマシンがありました。手描きの絵をこのFAXマシンに通せば、その絵をパソコンに送れるってことではないですか! つまり、FAXをスキャナーにするということです。
手描きの絵をFAXで読み込み、電話回線経由でMacに送り込み、画像編集ソフトのSuper Paintで仕上げをすれば、マンガの原稿も効率よく仕上げることができるのではないか? そんなことを思いつき、さっそく試してみました。
思いつきは良かったのですが、結果は大失敗でした。FAXの解像度は150dpiで、これではマンガの原稿としては使いものにならなかったからです。最低でも600dpiは欲しい。それが正直な感想でした。
しかし、FAXがスキャナーになるという発見は、別の用途の発見にもなりました。その頃、新聞のカットや4コママンガの仕事が増えていて、手描きのイラストやマンガはFAXで送っていました。150dpiでも原稿に使えるように、2倍以上の拡大率でイラストやマンガを描き、これをFAXで送っていたのです。
原稿はA4サイズのコピー用紙に描いていましたが、送信後の原稿を保存するのも面倒でした。すぐに枚数がたまってしまうからです。
でも、FAXをスキャナーにしてパソコンにマンガやイラストを送り、データをフロッピーディスクに保存しておけば、紙の原稿を保存する必要はなくなるではありませんか。出版社や新聞社に、うまく原稿が遅れないときでも、フロッピーディスクに保存してあるデータをFAXモデム経由で送ればいいのです。
〈下の図は写真をMac & Photoshopで加工し、FAXで送信したイラスト。実業之日本社刊「週刊小説」(2000年)に連載された『作家の電脳書斎』のイラスト〉
この事実に気づいた後は、FAX経由でパソコンに送り込んだマンガやイラストの原稿は、用済みと割り切って、さっさと処分してしまいました。こんなことができたのも、私は画力に自信がなく、自分のマンガの原稿に価値観を見出していなかったからでしょう。
このようなわけでFAXマシンは、150dpiのスキャナーとして機能しましたが、当然、モノクロでしかありません。カラー画像のやりとりをしてみたいとも思うようになっていましたが、それは、ほどなくGIFという画像フォーマットによって実現することになります。次回は、このGIFとの関わりについて紹介させていただきます。興味があったら、お楽しみに。