#84 社長夫人を押し退けて逃げる


 キミは、社長夫人を突き飛ばした。
 だが、巨体の社長夫人は、びくともしなかった。
「逃げようったって駄目よ、坊や。似がしはしないわ」
 社長夫人は、ニタリと笑うと、愛しい坊や、と叫びながら、キミを思いきり抱きしめた。
 バキバキ、ベキベキッ!
 キミは、全身の骨が折れる音を聞いた。肋骨も肩胛骨も大腿骨も、そして頭蓋骨までもが、一瞬のうちに粉砕されていた。
 骨の折れる音は、どこか、車のギアを入れたときの音に似ていた。そんなことがふと脳裏をかすめたが、次の瞬間には、その意識さえも消えていた。

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