#56 マネージャーに会う
キミが姿を現すと、アイドル・タレントのマネージャーがニヤリと笑った。
「何がおかしいんだ? 早く金を出せ」
キミが怒鳴ると、相手は、大笑いした。
「あいつも、そろそろ落ち目でな。あんたの姉さんとのスキャンダルをきっかけにして、大人の役者に転向させようと思ってたとこなのさ。かまわないから、週刊誌にでもなんでも、あんたの持ってる写真をばらまいてくれよ。こっちも助かる」
キミは、拍子抜けした。
「それよりも……」
マネージャーは、キミの全身をながめ回して言った。「度胸もいいし、ルックスも悪くない。どうだい、うちの事務所にくる気はないか?」
「え、ぼくがタレントに?」
「うちの事務所のバックアップがあれば、スターになるのは間違いなしさ」
とたんにキミは、その気になった。芸能界で売れてからレースをやってもいいじゃないか。スポンサーだってつきやすくなる。キミはマネージャーの話に乗った。
3年後、キミは、テレビ局からテレビ局をかけめぐる売れっ子タレントになっていた。金も入る。女の子にももてる。もうF1ドライバーになる夢は、とっくに忘れていた。
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