#49 霧の中のラリーカー


 キミは物音のした方とは反対の方向に車を進めた。警察なんかと関わりになるのは、ごめんだった。
 しばらく進んでいるうちに、キミは道に迷ってしまった。いつのまにか周囲は霧に包まれている。ヘッドライトの光も、ほんの数メートルしか届かなかった。
 背後の霧が揺れたのは、そのときだった。
 ウウウウォォォーーン!
 霧の中でエンジン音が轟いた。キミはバックミラーに映った車を見た。傷だらけのラリーカーが霧の中から出現した。なぜか傷は、左側に集中している。
 そのラリーカーには、ドライバーとナビの二人が乗っていた。
 ラリーカーは、キミの車を、あっというまに追い越した。
「この霧の中を、あんなスピードで飛ばすなんて、無茶だ!」
 霧の中にラリーカーは消えた。
 すると再び、背後から、エンジン音が聞こえてきた。ミラーを見て、キミは、顔をひきつらせた。いま、目の前に消えたばかりのラリーカーだ。
 ラリーカーは、再び、キミの車の横をすり抜けた。窓の中が見えた。ドライバーは短パン姿だ。そして、前方の霧の中に消えていくラリーカーを見たキミは絶叫した。
「うわあぁッ! あの車には、足が……いや、タイヤがないーーーッ!」
 次の瞬間、キミの車は、宙に飛んでいた。高い崖からジャンプしたのだ。キミの悲鳴が、暗い谷底に尾を引きながら、ゆっくりと吸い込まれていった。

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