#35 モータースポーツ世界戦略
「レースの世界も、まもなく主導権はアメリカに移る」
「え?」
キミは父の言葉の意味が、とっさには理解できなかった。
「アメリカの大気浄化法案が通過したら、燃費、排気ガスの規制が、さらにきびしくなる。また、世界の人たちのレースに対する目も、かつてのオイルショックの頃のように、厳しくなるだろう。車メーカーも、自社の売り上げのためだけには、レースをやっていられなくなる。レースの場も、次世代を担う技術開発の場だという大義名分が必要になってくるはずだ。だが、いまのF1は、時代錯誤もはなはだしい。燃料規制もなく、また、馬力アップのためだけでなく、燃費削減にもつながるターボも廃止してしまった。これは、ホンダが強すぎたことだけではなく、FISAが、ヨーロッパ、とりわけフランス、イタリアのメーカーの利益を代表しているからさ」
父が説明を続ける。
「いずれ、世界から、それも最初はアメリカから、レースの無益なパワー競争に対する非難の声が上がってくる。その空気を察知したら、おそらく、ホンダとフォードは、F1から撤退するだろう。ホンダもフォードも、アメリカが最大のマーケットだからだ。メーカーのイメージも大事だからな。そして、新しい低公害エンジン、省燃費エンジンの開発に全力を注ぐことになるだろう。ヨーロッパのメーカーも、結局、その渦に巻き込まれて翻弄される。そのときに主導権を握るのは、やはり、日本とアメリカのメーカーだ」
父は、きっぱりと言った。
1.続く