#17 小市民はF1の夢を見ない
翌日から、キミは、そのF1パイロット養成ギブスをつけて学校に通うようになった。ギギギギ……、と音をさせながら歩かなければならない。女の子たちが、その様子を見て笑った。
いまの学校教育は、誰もが平均化される個性喪失教育となっている。その中で、F1パイロットになるなどというのは、即、はみ出すことを意味していた。幼い頃に、プロ野球の選手や電車の運転手、漫画家、歌手などに憧れる子供は多い。しかし、その夢を持続するのは容易ではない。次第に、自分の能力と現実に目覚めてくるからだ。
多くのプロ野球選手が、リトルリーグ時代から親の協力なくしては、プロの選手にはなれないように、レースの世界でも家族の応援なしには、プロのドライバーにはなれない。キミは、よき理解者に恵まれた。しかし、それは、少々、行き過ぎの感もあった。
キミだけでなく、キミの母までもが、変人扱いされ始めた。そのプレッシャーに父が悲鳴を上げた。父よりもキミが大事になってしまった母に、父は愛想をつかしてしまった。そして、家を出てしまったのだ。
「所詮、あの人は小市民だったのよ。夢を見ることができない……」
母は、意に介さなかった。そして、家を売り払い、その資金でスナックを始め、キミのレース資金を稼ぐことになった。
姉も高校を中退して、スナックを手伝った。キミに夢を賭けたのだ。
1.続く