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『真珠湾<奇襲>論争』(須藤眞志)

真珠湾<奇襲>論争 陰謀説・通告遅延・開戦外交
『真珠湾<奇襲>論争 陰謀説・通告遅延・開戦外交』(須藤眞志/講談社選書メチエ/2004年8月刊/2,405円)

 昨日、書店に出かけた際、小説家の佐々木譲氏が、10月20日付けのBlogで、『真珠湾奇襲・ルーズベルトは知っていたか』(今野勉/PHP文庫/2001年6月刊/860円/親本は1991年、読売新聞社刊)について触れていたのを思い出し、つい最近も、真珠湾奇襲の陰謀説に関する本が出ていたはずだ……と店内を歩きまわって見つけ出したのが、この本。
 いわゆる「歴史修正主義者」の手によって、「ルーズベルト大統領は、日本海軍の真珠湾攻撃を知っていた」する説を肯定する本が多数出版されているが、『真珠湾奇襲・ルーズベルトは知っていたか』は陰謀説を否定する数少ない本の1冊。もともとテレビマンである今野氏が、同じ説にたどりつくテレビのドキュメンタリーを元に記した本だが、実に説得力があり、「ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を知らなかった」とする主張も納得できる。
 この『真珠湾<奇襲>論争』も、「ルーズベルト大統領の陰謀」を扱ってはいるのだが、やはり少数派の陰謀説を否定する内容となっている。
 それなのに、「ルーズベルト大統領の陰謀説」を主張する本ばかりが、次々と出てくるのは、どうしてだろう? テレビの歴史バラエティ番組などでも、陰謀説がたびたび登場してくるのだが、その理由は、「おもしろい」からだろう。
 ぼくも、これまで多数の日米開戦関連の本を読んできた結果、「陰謀はなかった」と考えているひとりで、架空戦記小説という娯楽戦争小説を書くときも、「ルーズベルト大統領とチャーチル首相の談合」説(日本を戦争に追い込む)を採用してきたが、たいていの場合、ルーズベルト大統領は「日本が攻めるとしても、それはフィリピンのはずだ」と考えていたことになっている。真珠湾攻撃のことは予想もしていなかったため、あわてふためく……というシーンが多いのだが、でも、たまには「娯楽戦争小説」として、「ルーズベルト大統領の陰謀肯定説」を採用するのも悪くないかと思うこともある。それというのも、出版社から求められるぼくの役割が、「超」や「トンデモ」が頭についてもおかしくない劇画調架空戦記小説だからである。

 ところで、フランクリン・ルーズベルト大統領は、生前から自身と母からの寄付によって、自身の資料館を建設し、そこに政治や外交、戦争に関するあらゆる文書、メモなどの資料を保存しつづけてきた。インターネット上でThe Franklin D. Roosevelt Libraryの存在に気づいたのは、もう10年近く前のことだが、その後、このWebサイトは、ルーズベルト大統領に関連する文書や資料の公開がつづけられ、いまも大規模なオンライン資料庫として、着々と成長しつづけている。
 これも、政治や外交に関する機密事項でも、一定の年月を経たら公開するというアメリカならではの情報公開に関する考え方に基づいたものなのだろうが、日本人の立場からすると、実にうらやましい限り。とりわけ「Safe Box」というメモや文書の詰まったファイルは、歴史ライターや歴史を扱う小説家にとっては、垂涎の資料となるのではなかろうか。トンデモ系架空戦記作家としては、このような宝の山も、ただ指をくわえて見ているばかり。それが、ちょっと残念。

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